FRENCH ARMY M52 CHINO TROUSERS
どーも皆様宜しくお願い致します。
PATTERN LABO.イカさんと申します。
古き良きVintageウェアをバラバラにして、考察、妄想する事により今の物づくりをもっと面白い物にするべく邁進中です。
今回は
フランス軍 M52 チノ 前期型
1950年代から1960年代頃にフランス軍で採用されていたパンツです。
フランス軍のパンツと言えばM47のイメージも強いですが、M52も負けず劣らずの名作です。
なんと言ってもバランスが良い。
僕はそう思っています。
太くゆったりでありながら2タック使いで野暮ったくならずスッキリとした印象のシルエットで、縫製においても巻き縫いと折り伏せの使い分けや運針の細かさなど原産国を意識せざるを得ないような、なんとも考察しがいのある1型です。
前期型と後期型に分かれていて、実は個体差が強めなアイテムのような気もしています。
全体像
タックが入っているからこそではあるのですが、前身が太い感じ。
この太さをウエストのタックが吸収する事に加えて、後身の傾斜も倒し過ぎず尻グリのカーブも作られている事で太く且つスッキリした印象を作ります。
後ポケットタブ
後のポケット口にタブが付いている。
これは前期型の特徴の一つで、後期型にはフラップに変更される。
位置をとらないといけないし、使い勝手も多分フラップの方が良い気がするから、フラップに変わっていくのも分かる気がする。
デザインとしてはこっちの方が好きだけどね。
これが後期型。
ベルトループ
ベルトループはなんと、上下挟み込み。
しかも一つ一つ地縫いして返して作る仕様です。(裏側はスレキ)
手間、、かかってますね。
これも前期の特徴で後期には普通のループに変わります。
ダーツ
後のダーツが玉縁ポケットを貫いています。
ダーツは欲しいけど玉縁ポケットは上の方に付けたい。
そんな結果だと思うのですが、ポケットを貫いたダーツが潔くて好きです。
パタンナーさんは共感してくれる方もいるはず~。いないかな?
ノッチ
前身頃のタックの上端にノッチ(切り込み)が入っています。
この目印のノッチはビンテージでは無い(解れて見えないも含む)事が多いです。こんなにくっきりと残っているのはなんだか珍しくて。
股の交わり
これを見るだけで十分な方も恐らく多く見てくれていると思いますが、簡単に解説しますね。
この画像で一番伝えたいことは、前後の股ぐりが内股よりも後に縫われている。
という事です。
ここを縫う順番というのは、型紙の形状にも影響を及ぼすとても大きな事です。
全てが。と言い切る事が出来ないのは服作りの楽しさでもあり、もどかしさでもありますが、この事例も例にもれずなのでご注意下さいね。
結局ここでも感じる事は、作業効率に一番重きを置いた物づくりでは無いという事です。
もちろん、慣れ次第でどの縫い手順が効率が良いのかなんて変わる可能性はかなり高いです。
それなのに、これは拘りだ。と言い切る事には理由があります。
それは、後期型の多くは縫う手順に変更が加えられているからです。
何も思って作ったのだろうか?
なんて思いを馳せるのはやっぱり面白い。
後裾補強
少し分かりづらいですが、裾の三つ折りの写真です。
下側が後身頃側で、何1枚当て布が付いています。
踵部分への補強になってるのですが、裾巾27cmと太いからこそ尚更必要だったのかな?
小股裏
前脇ポケット
実はこの部分に一番特徴があると考えています。
脇は折り伏せ始末で前高のダブルステッチ。
前身頃側は袋布と口見返しで挟まれており、後身頃は袋布と向こう布で挟みこまれていました。
もうとにかく説明が難しいのですが、とにかく裁ち端を出来る限り見せない仕様です。
折り伏せからポケット口に交わる部分に切り込みが入る事はどうしても避けられない事から下側のみ閂止めが2か所に入っていると考えられます。
ロックミシンを使わなくても縫える事が重要だったのか?
ロックミシンを使いたくなかった(見せたくなかった)のか?
真相は不明ですがロックはどこにも使用されていません。
後期型ではこの袋の始末にロックが登場していきます。
後期型↓
それでも尚不思議に思うのは、ロックになったから縫いやすくなったようにはそこまで感じ無いんです。
端の始末の収まりがいくらか良くなる気はしますが。
一見すると袋の作りなんて全然分からないと思いますが、意外とそんなところに
『この縫い何⁉』
というような仕様が隠れていたりします。
チェーンステッチの使い所
これもまた一番面白いと感じている点。
・脇→前高折り伏せのダブルステッチ。
・股ぐり→左高折り伏せのダブルステッチ。
・内股→前高巻き縫いのダブルステッチ。
この仕様から分かる事はどうしても巻き縫いでなければやりづらい部分以外は巻き縫いを使わず縫われているという事です。
詳しい説明は省きますが、巻き縫いの方が折り伏せ縫いよりも工程が少なく効率的です。そして巻き縫いの場合は裏側がチェーンステッチになります。
チェーンステッチ以外の見え方は同じです。
(縫い方によっては裏に見えるステッチが1本増える)
それでも敢えて巻き縫いを1か所しか使ってない理由は?
ミシンの台数の問題。
という可能性は捨てきれませんが、そんな答えではロマンが無さすぎますので却下です。
縫製や強度に対する拘り
この答えが秀逸です。
巻き縫いは効率的ですがチェーンステッチになるため、解れに足しては弱い部分があります。
運針においても本縫いに比べると小さく設定する事が出来ず粗目のなりがちです。
きっと当時の人達が拘りを持って、ヨーロッパらしい物づくりを目指した結果だろう。そんな風に思うとM52前期型、本当に名作と言えるとそう思いませんか?
って。妄想なんですけどね。
というわけで、
今回も楽しかった!!
FRENCH ARMY M52 CHINO TROUSERSこれにて。