なぜ、A-2を入れる事にしたのか。

「服ヲ掘ル」第4回、テーマをフライトジャケットと決めた際、本来僕の専門性と少しずれるレザーのA-2フライトジャケットをラインナップに入れる必要性を感じたのには理由があるそれは単に、第二次世界大戦の英雄たちが着用したアイコンだから――だけではない

この一着の中に、「服」が「道具(ギア)」へと変わっていく、その分岐点の“迷い”と“美学”が、濃縮されているからだ今回、我々が解体・解析した個体から見えてきたのは、後年のフライトジャケットでは見られない(あるいは減っていく)「不合理な仕様」の数々だった

しかし、その不合理さこそが、A-2をA-2たらしめている正体かもしれない。

※前提:vintageアイテムはコントラクト(契約)やメーカーにより仕様差がある。以下は、今回探求した“この個体”が語る事実として読むのが正解だと思っている。

1. 隠された「理性」と、剥き出しの「野生」

まず目を引くのは、首元の仕様だ。


前立て上部のホックは、ハトメ構造で後打ちされ、金属の表情が剥き出しになっている。非常にミリタリーらしい、無骨な強度の確保だ

 

一方で、そのポケットにある釦は隠しスナップ(Hidden Snap Fasteners)が採用されている。表からは見えないミニマルな処理だ。

一方で、ボタンは隠しドット釦仕様となっており、見た目にはほとんど主張せず、ミニマルかつ実用的な処理がなされている。裏側には身頃と同
素材のレザー製力布が配されており、ドット釦の反復使用による生地の裂けを防ぐ役割を果たしている。凹側(メス)のパーツは表からは見えないが、一般的なキャップタイプではなく、中央に穴のあるオープンタイプのスナップが採用されている点が特徴的である。

2. 脇下のズレが語る「生産の現場」

構造マニアとして見逃せないのが、袖下の縫い合わせだ。 この個体、袖下の切り替えが微妙にズレている

袖下の切替がズレている。
厚み軽減の為である可能性はあるが、ズレていない個体も見た事があるので意図せずズレたのだろうと思う。
そして袖下から脇線の縫製はアームホールの後に縫われている。
この縫う順番は様々な要素に影響を及ぼす。

これはレザーなので当てはまらないが、アームホールを後で縫う場合は巻き縫いが出来なかったり、構造が変わる事でシルエットにも差異が生まれる。
どちらが優れているという話では無いのだが、どんな思想で救ったのか想像するポイントには成りうる。

3. 「何も入らない」ポケットの謎

このポケットのデザインもA2の象徴的な部分。裏付きのデザインな事もあり、内側の糸摘みはされていない。
フラップの形などで当時のコントラクターを見分けたりするポイントでもある。
ポケットのサイズ感が比較的に小さい印象もあり、ミリタリーに見られるマチのような収納に対する構造も無い。

このことから、機能としてのポケットでは無かった可能性を感じる。
A-2の設計は「Type Specification No. 94-3040(1931年)」などに基づいていますが、
この中でポケットの機能性についての記述はごく限られており、
“Two patch pockets with buttoned flaps, located on the lower front of the jacket...”
→「ボタン付きフラップのあるパッチポケットを2つ配する」とのみ記述されており、容量や用途については明示されていない。

つまり、具体的に“これを収納する”という目的設計ではなかった可能性が高いのではないかと思う。
B-10以降の布製ジャケット(L-2BやMA-1など)で機能的ポケットが強調されていくのと比較すると、A-2は美観と威厳を優先していたとも考えられる。

総括:過渡期の美学

今回の解析で、A-2に対して強い「違和感」を覚えた素材は重く、硬く、動きを制限する。しかも(今回の個体では)動きを助けるためのディテールが、後年のジャケットほど徹底されていない

戦闘機やコックピットが進化し、より軽快な動きが求められるにつれ、フライトジャケットはレザーから布帛、そしてナイロンへ――という方向に流れていく

その歴史の中でA-2は、「フライトジャケットの原点」でありながら、まだ*衣服”に留まっていた服と言えるかもしれない。

これらは、現代の我々が「Pattern IP(現代の資産)」として抽出すべき、失われた「服としての豊かさ」そのものではないだろうか。

今回は少し畑違いな取り組みであったが、
いつも通り楽しかった。