FUKUBORI 最初の5PocketPants
今回はFUKUBORI最初の製品、5PocketPantsについて書いていきます。
5ポケは本当に奥が深い。
リーバイスを初めとする古き良きビンテージジーンズ達。
デザインしないと明言しているFUKUBORIは何を参考にさせてもらうのか?
そう。最初のプロダクトは王道を貫く事にしました。
王道と言っても、オタクである僕たちにとっては年代や仕様によってかなり細かく分けられて認識されています。
そんな細分化された歴史の中で『5ポケットジーンズが完成した』と言われる戦後の年代を選びました。
オートクチュールのように、「その人」に合わせて作られた服にはそこまで興味がありません。既製品として多くの人に向けた量産品を作る作り手の情熱や、その時代と共に変化していく縫製仕様など、当時の事を感じるビンテージが好きです。
そんな僕にとって、
ベルトループが採用され、様々な変化を経て完成されたこの年代というのは特別な年代である事に間違いありません。
でも実は一番好きな年代のジーンズは戦後の物では無くて、60年代頃だったりします。それに、欲を言えばもっと古い年代を参考にした物づくりもしてみたいとも考えています。
つまり、どんな想いで制作していくのかで選択する年代は変わるという事になりますね。
そして今回の戦後のジーンズの特徴とは何なのか?
FUKUBORIにおいて重要視しているのはどこなのか?
これについてお話しさせてもらえたらと思います。
まずは全体についてお話しさせて頂きますね。
メインで使用する生地
『服を構成するのは生地』そう言っても過言では無いくらいに生地は重要なポイントになる事は間違い無いですよね。
数多くのブランドが、素材にこだわっている事を打ち出しています。
FUKUBORIも当然拘っていますが、オリジナル素材ではありません。
物づくりをする人間としては、オリジナルで作る事も出来たら良いなと考えてはいます。それにFUKUBORIではありませんが過去に一度オリジナルデニム作りに挑戦した事があるので、コストやクオリティに対して自己満足にならず既存の生地を超えるような素材を作りだす難しさを知っています。
そして、西日本、備後地区には生地のプロフェッショナルである機屋さんで織られた拘りの生地が数多く存在しています。
今回は老舗機屋の一つである「日本綿布」製のデニム生地を採用しています。
「日本綿布の特徴は【表情感】です。
表情のある生地を作る事を得意としています」
お世話になっている生地屋さんはそんな風に話されています。
僕のイメージは老舗にも関わらず、挑戦してくれる機屋さんという感じ。
そんな日本綿布の開発している生地からFUKUBORIとして選んだのは
この生地は12オンスのセルビッチ。
タテヨコ共に8番手という太さで且つ、どちらもムラのある糸を使い織られています。
「それはどういう事?」
そんな風に思う方も少なくないと思いますので詳しく書かせてもらいますね。
12オンスの生地というのはタテ糸7番、ヨコ糸10番(数字が低い程太い糸になる)という感じで、タテ糸の方をヨコ糸よりも太い糸を使う事で表面のムラや凹凸を目立たせる事が多いです。
そんな中、この生地はタテヨコ共に8番手という同じ太さの糸を使用しています。それはつまり、どちらかに偏らせた表情にする事無く表裏のバランスが良い生地になります。
それだとキレイな表情になるのでは?
僕もそう思ったのですが、どちらもムラのある糸を使用しているのでそんな事はありません。
このバランス感がとても魅力的で、FUKUBORIのデニム製品の生地として選択するに至った一番の理由です。
加えて、生地端の赤耳の部分を赤い糸を際にもってきて特徴を作っている点も僕は好きです。日本綿布だけの特徴では無いのですが、この耳には日本綿布のイメージがあります。
シルエット
シルエットについても大きく変更をしてしまうとデザインの領域になると考えていますので大まかな部分はビンテージをサンプリングしています。
大きく意識している部分は、ビンテージらしさを残すために出来る限り直線的なラインで構築しつつ、必要な部分は思い切ってカーブにしています。
ウエストラインや尻は出来るだけ直線的にしつつも、内股や前の股ぐり部分においてはしっかりとカーブさせています。
当時がどうだったのかという事については様々な個体があるので言い切る事は難しいのですが、同じようになっていたのでは無いかと僕は考えています。
フロントを見ていきましょう。
ジーンズの前の顔と言えば前明き部分のJステッチと前ポケットの形状のバランスです。
当時のジーンズを参考に、編集はするがデザインはしない。というコンセプトに基づいて大まかな形状は手元にある個体に合わせています。
当時の製品というのは往々にして縫製が一定では無かったりします。
これは「良くない乱れ」だなと判断した部分においては手を入れて調整しています。デザインはしないと言ってもFUKUBORIは完全再現がしたいレプリカブランドではありませんからね。
そんな前身最大のポイントとしては、表から縫う部分と裏から縫う部分を指定してステッチの見え方を調整しているという事です。
ミシンには上糸と下糸が存在していて、一般的には上糸が見える事方が美しいと思って良いです。ビンテージ当時は恐らく『早く縫える事』が重要とされていて、表面に下糸が見えている部分が多々あります。
それが結果的には見え方のコントラストになり、豊かな表情に繋がっていたりする側面もあります。
それは服作りの面白さや奥行きであり、FUKUBORIではもちろん採用しています。
画像では伝わり辛いにが実に悔しいですが、前明き部分のステッチの見え方が縫製箇所によって異なっています。
それ以外にも
ポケット口の縫代は8㎜が良い。
前股部分は太い糸のステッチにしたい。
など多くのポイントが存在します。
ビンテージの縫代設定に効率の最適化として意味があるように、FUKUBORIにおいても重要な部分は踏襲しつつ、今の物づくりにフィットさせるべき部分は編集して設定します。
ここで難しいのは、全てを今の物づくりに最適化してしまうと奥行きが失われてしまい他と同じ物になってしまう事です。
なのであくまでも、今の物づくりへの最適化では無くFUKUBORIにとっての最適化なんです。
それぞれのブランド毎に【最適】の答えは変わるって事になりますね。
そのようにして拘り、考え、工場と時には対立してつつも突き進めて作られる製品こそが良い製品だと僕たちは考えています。
次はバックスタイル
後の顔はなんと言ってもポケットですよね。
ポケットの形状ももちろんですが、隠しリベットをどうするのかという事に特に拘りを持っています。
隠しリベットという仕様は、当時の拘りをものすごく感じる部分です。
にも関わらず、現在の物づくりでは工程を変更し、単なる飾りとしてのリベットになってしまっている事も多々あります。
隠しの仕様を構築していく際に入れる生地への切り込みの位置が12㎜程度ズレるだけなのですが、これがとても大きな違いになります。
ここを妥協するくらいなら、隠しリベットの仕様は必要無いとすら感じてしまいます。
それから、ヨークの巾の設定の仕方についてもFUKUBORIでは拘っています。
まず最初に伝えておきたいのは、ヨークの切替にダーツ分量は入っていないという事です。
たまに、ヨークはダーツ分量を入れてヒップの丸みを出す為の切替だ。と言っているパタンナーさんが居ます。
ですがそれはビンテージジーンズという意味では間違えています。
この切替線は生地の使用量を減らす為の切替であり、シルエットを構築する為ではありません。
このように生地に入れて裁断します。
その際に、後のヨーク切替が無かったとしたら、後身頃が飛び出してしまいますよね。
なので、前身の丈に合わせてヨークの切替を入れる事で無駄の少ない裁断にする事が出来ます。
つまり、ヨークの切替というには生地のタテ方向に対して垂直に切るような形状になることが、本質を捉えている形と言う事が出来ます。
そのような考えから、FUKUBORIでは切替に角度の無い巾になるように設定しています。
裾のチェーンステッチ
裾のステッチはもちろんチェーンステッチです。
ですが、ユニオンスペシャル(ビンテージミシン)で縫って欲しい。
という依頼はしていません。
それよりも、「脇側で縫い重ねて下さい」という依頼をしています。
今の物づくりであれば、脇側は俣川よりも人から見える部分なので綺麗に見せる為に股側で縫い重ねます。
誰が見ているのか?という視点を変えてみると、自分(穿き手)からは股側の方がよく見えます。
人は人の服の裾の縫い重ねがどっち側かなんて気にしていません。
※オタクは除く
それなら自分から見てキレイな方が良いなと僕は思います。
ビンテージが脇側で重なっていて、それは効率の為であると考えられます。
もちろんそれもFUKUBORIが脇で重ねる大きな理由の一つであり、それがきっかけで先の事に気が付いたのですけどね。
ベルト付け
ベルト付けはもちろんチェーンステッチです。
そして縫い端はベルトの中に入れ込んでいます。
そう、この画像はベルト先の縫い目を見て欲しかったのです。
はい、チェーンステッチの先をベルト端に入れ込んでます。
だから何?
そんな声が聞こえてきそう。
これはFUKUBORIにとっては大事な所。
『編集』の部分の一つだからです。
ビンテージのジーンズはチェーンステッチがそのまま縫い流されていて、このように端に入れ込まれていません。(僕はそう判断しています)
ですが今の日本の現場では入れ込んでくれます。
チェーンステッチが解れるリスクや見た目の問題からだと思うのですが、この方が完成度高いと感じています。
美しい事だけが正義では無いと考えていますが、丁寧な縫製はやはり嬉しいものですよね。
パッチ付け
ベルト上側のステッチを入れる際にそのままつなげてパッチを縫い付けています。
こんな縫い方があるしビンテージもしている。
綺麗に縫いすぎると見落としてしまいがちな部分なので思い切ってステッチをずらしてもらいました。
本当にね、ちょっとした所なのですが、こういった部分に作り手の好みや参考にしたアイテムが透けて見える気がしてすごく好きです。
コインポケット
コインポケットの形!ってこれも画像では伝わり辛いですね。
ステッチの入れ方も実は拘っていて、2本針と呼ばれる一度に2本のステッチが入れられるミシンは使用していません。
単線のミシンで一筆で縫い付けてもらっています。
(ポケット口は違うよ)
それによって、内側のステッチがとても縫いずらい状態になり、乱れます。
この乱れは下手くそな訳では無く、工程上どうしても乱れがちになる所なので、「神経質にならずに縫って下さい」
そう依頼しました。
上がってきたサンプルを見て
『良い!』となったのですが、やっぱりそうかぁ。
という後日談があります。
とはいえ良い事に変わりは無いので満足です。
製品は未洗い
大事な事も書くのを忘れていました。
FUKUBORIのデニム製品はノンウォシュ、未洗いで販売します。
正直、かなり迷いましたが、まずは自分の想いを貫いてみる事にします。
というのも、デニムは未洗いで穿くのと一度洗って穿くのでは全然感覚が違います。
それは糸に糊がついている、パリッとした状態の生地を縫い上げるからなのですが、正直、一度洗わないと穿きづらいです。
それでも、せっかくデニムを穿くなら未洗いを体感してもらいたい。
そう考えています。キナリなのにね。
すぐに洗っても良いし、最初の一回だけ未洗いで着用してみるのも良いと思います。僕はいつも初日のみ未洗いで穿きます。
それから、匂いがあるんです。
コットンの匂いと糊の匂い。それぞれ生地の匂いみたいな物もなんとなく感じで欲しいとも思ったりしています。
とはいえ、買いづらい商品というのもまた微妙な話なので、柔軟に考えていくつもりです。
ビンテージのジーンズを踏襲するという事
ビンテージのジーンズは全て綿糸で縫われています。(年代にもよる)
なので、現在の物づくりに比べて糸の強度が少ないと言う事も出来ます。
では単に当時のジーンズは弱いのかと言えばそうではありません。
縫製箇所によって糸の太さを変える事で強度を保つ工夫がしてあります。
例えば、脇の地縫いや前の股のステッチ部分などは太い番手になっていたりします。
前身の話でも触れましたが、そのような糸の太さの使い分けによって表面的な部分も豊かになり、より魅力的な製品になっています。
FUKUBORIのジーンズは生地は生成り色、糸も同色なので縫製糸が目立つアイテムではありません。ですが今回は全て綿糸で、縫製箇所によって糸の太さを変えています。
その目に見えづらい拘りが奥行となります。
「神は細部に宿る」
この精神が大好きであり、それを信じています。